『敵は海賊・正義の眼』を読んだ。10年ぶりの「敵は海賊」シリーズの新刊になる。
今回は見開きに「聖なる悪と純なる悪の俗なる戦い」という言葉どおり、「正義」を振りかざす悪と純粋な悪とどちらがより悪かという神林氏らしい観念的なコンセプトの上に描かれているストーリーだ。いままでの「敵は海賊」シリーズでもこういったテーマを描いたものもあったが、今回はこのシリーズらしいドタバタが目立って少ないので違和感を覚えるファンも多いだろう。もっとも、これは観念や理念での戦いであって、海賊課のあり方がそんなものとは究極に位置する即物的な存在であるから、これは必然なのかもしれない。ヨウメイも言っている、「海賊課の連中は観念で遊ぼうとしない。ゲームに参加しようとしないのだから、遊びにならない」と。
正直、モーチャイの観念を社会活動として具現化するプランナーとしてのカリスマ性、そういうものに染まりやすいサティ刑事、リジーの正体、メドゥーサスのあり方など、うまく生きていない設定があるように思う。もう少しこれらを折り込んだプロットで話を広げてもよかったのではないかと思う。今後のシリーズでこれらが生きてきそうな気もするが。
最近の許せない犯罪、腐敗、怠慢などとそれらを袋だたきにしている報道メディアや世論などの世情と合わせて考えると、いろいろ意味深にとらえたくなる。
が、まぁ、そんなのは読んだ後にゆっくり考えて、まずは10年ぶりの本書を楽しみましょう。
敵は海賊・正義の眼 (ハヤカワ文庫 JA カ 3-37)
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神林 長平
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