少女の一人称で語られる物語、描かれる世界は昭和初期を思わせる農村的風景、世界感を支配する「呪力」に架空の生物たち。なんとなく宮崎駿的ファンタジーを思い浮べながら読みはじめた。
ローレンツの動物行動学に発想を得たという、オオカミなど凶暴と言われる動物以上に同族への攻撃抑制ができない人間の不完全さが全編に渡って描かれている。描かれる人間の業は、後半に向けて繰り返し更に救いの無い形でより深く描かれていく。
かなり悲惨な展開の中で主人公の強さということが物語でも出てくるが、どちらかというとこれは展開上の必要性で与えられた属性でテーマは人間の業の救いの無さにあるように読める。
そして、最後の最後で更に救いのない形で世界を反転させてみせる結末ははSFとしてもホラーとしても見事と言える。これだけの長編で膨大な伏線とエピソードを張り巡らしながら、どれもが無駄なく論理立って繋っていき、なおかつ読後にテーマが一本の軸でブレれていないと読者を唸らせる作者の力量は並のものではない。
基本的にはホラーな人なのでかなり描写がグロな部分があるが、それが受容できる方にはお勧めの一冊。ページ数はかなりあるが一気に読めてしまう。
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