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『ぼくのエリ』

スウェーデンのスティーブン・キングと言われるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストのベストセラー「モールス」を映画化した作品を、テアトルで見てきた。

北欧映画ということで、異なり雪の降る街並などを情景たっぷりにじっくり写しているシーンがあったりして、ハリウッド映画のスピード感に慣れてしまった感覚からすると、冒頭でいきなり眠りそうになってしまった。

が、見ている内にどんどん引き込まれていく。12歳の少年とその隣に引っ越しって来た実はヴァンパイアのエリの物語。ダーク・ファンタジー X 小さな恋のメロディ を雪一面の北欧らしい凛とした情景を交えてアーティスティックな映画という感じか。「モールス」という原作のタイトルは、少女と少年が壁越しにモールス信号でやり取りをすることから来ている。ちなみに映画の原題は『Let The Right One In』(正しき者を中に入れよ)で、ヴァンパイアは招かれないと中に入れないという伝承に基づいている。

少年オスカー役の子も北欧らしい綺麗なブロンドで少女と言って見まがうほどの美しい少年だけれど、エリ役のリーナ・レアンデションが圧倒的に素晴らしい。少女らしいあどけない表情や、とても老成した表情(原作では200歳ということに)、恐ろしいヴァンパイアの表情など、実に多彩な演技ができる子で末恐ろしい。

予想外にとてもよい映画でした。ここからはネタバレなので、読みたい方は「もっと読む」をクリックください。

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)
ヨン・アイヴィデ リンドクヴィスト
早川書房
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感想をいくつか。

前半でエリと一緒に引っ越してきて彼女のために殺人を犯し血を集めているおっさんが出てくる。このおっさん、エリを愛しているらしいがエリには使役されている。血を集めにいくとき「今日はオスカーと逢わないでくれ」とエリに懇願するシーンがある。このあたりのおっさんの物悲しさったらない。大体何回も殺人は犯してるだろうに、血の入ったポリタンクを現場に忘れてきたり、逃げ場のないところで凶行に及ぼうとしたり、不器用この上ない。あぁ、悲しいおっさんだ。

が、このおっさん、オスカーと対比して描かれており、このおっさんも昔はオスカーのようにエリと出会ったのかとか、オスカーもいずれこのおっさんみたいになるのか とか想像してしまう。エンディングは、オスカーがエリと旅立っていくのだが、そう考えるとハッピー?っぽいこのエンディングもちょっと心が苦しくなる。(原作ではまったく扱いが異なるらしい。)
箱に入ったエリを伴って列車で旅立っているオスカーを見ると、京極夏彦の「魍魎の匣」を思い出してしまった。

全体的に、描かないことで色々と想像させるという作りになっている。何故おっさんがエリと暮らすようになったかなど一切説明されないし、オスカーが慕っている離婚した父親もゲイであることが暗示されておりオスカーの孤独を深めているとか。こういう演出は嫌いではないが、台無しな点が2つ。

ひとつは、モザイクがあり得ないところで使われている点。
エリが「わたしは女の子じゃないの」って意味深に語るシーンがいくつか出てくる。最初はヴァンパイアだからということかと思ったが、ヴァンパイアであることをオスカーが知った後も出てくるので??? と思っていたら、エリはもともとは少年で去勢したということらしい。エリの着替えをオスカーが覗いてしまい、局部を見てしまうシーンで、局部にモザイクが掛かっていて意味不明だったがそういうことらしい。これはないんじゃない!?
って思って確認したら、映像も明らかに人形の模型で作ったものだし配給元はがんばったらしいが、映倫で「モザイク入れないと公開させんぞー、ゴラァー」って嚇しを掛けられたらしい。まったく!

もう一つは、上記を踏まえるとサブタイトルの「200歳の少女」はいらんかったじゃないか!
まぁ、日本の映画のポスターとか見ると極力ホラー色を消しているのがわかるが、このサブタイトルがないとなんの映画かわからんというのはあると思うが、それだったらオリジナルのポスターのほうがよかったんじゃないか。

ハリウッドでリメイクが進んでいるらしいが、この映画のよい意味での余白や北欧らしい静寂さがどういう形で残るか興味深い。

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