小笠原慧の作品の文庫。
オープニングはベトナムで子供を身ごもった妊婦から始まる。
そして、アメリカで冷蔵庫に隠された夫婦の死体に端を発する殺人事件を追うスネル、同じくアメリカで遺伝子研究を行う研究者グエンと石橋、日本で重度障害児施設に赴任する女医・志度。一見関連のない3つストーリーが同時に進行して、最後にそれらが紡がれていくハリウッド映画のような手法で描かれたミステリー。
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この作品はミステリーだけでなくSFとしても「ヒトの進化」を扱っており、通常は障害される染色体異常と進化を関連付けてとらえている点はなるほどと感心する。科学的にどれだけ正しい内容かはわからないが、作者が医師だけに遺伝子工学や染色体の話など専門用語を交えた内容はなんとなく説得力がある。重度障害児施設の描写など厳しい描写もあるが、そういうことを含めて現実としての説得力につながっているのだろう。
文庫の帯に「複線のはり方があまりに見事」と書かれていた。3つのストーリーが次々と状況を変えていき、お互いにつながる断片を見せる。最初は関連性が見えず読みにくいと感じる人も多いだろう。中盤からさらに謎を深めながら、後半に向けて紡がれていく様は確かに見事。伏線も多くは、勘の良い読者であれば割と早い段階でなんとなく読めてしまうだろう。わたしも早い段階で気付いてしまったが、それでもその展開が早くみたくて一気に読み進んでしまった。
ただし、最後に起こるどんでん返しの伏線は読めなかった。
この登場人物に与えられた環境が何らかの伏線であるような気はしたが、最後までどう使われるのだろうと思っていた。この人が行為を拒むのもまったく逆の理由を想像させられてしまったので読み誤ったのかもしれない。
読了は爽快なものではないけれど、展開も早く読みごたえるのある作品であることには間違いない。
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